平成29年12月14日に平成30年度税制改正大綱が閣議決定されました。
今回は、個人所得課税の中でも関心の高いものを中心にまとめてみました。
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給与所得控除の改定
給与所得控除を一律10万円引き下げ(増税)
平成32年(2020年)から、給与収入から控除されるサラリーマンの経費としての意味合いがある給与所得控除が一律10万円引き下げられます。
そして、給与収入の上限額が850万円になり、その控除の上限も195万円に引き下げられます。
給与収入 | 平成31年(2019年)までの 給与所得控除 |
平成32年(2020年)からの 給与所得控除 |
---|---|---|
162.5万円以下 | 65万円 | 55万円 |
162.5万円超 180万円以下 |
給与収入×40% | 給与収入×40%−10万円 |
180万円超 360万円以下 |
給与収入×30%+18万円 | 給与収入×30%+8万円 |
360万円超 660万円以下 |
給与収入×20%+54万円 | 給与収入×20%+44万円 |
660万円超 850万円以下 |
給与収入×10%+120万円 | 給与収入×10%+110万円 |
850万円超 1,000万円以下 |
195万円 | |
1,000万円超 | 220万円 |
中所得者以上ののサラリーマンについては増税になりますね。
所得金額調整控除
上記の給与所得控除の改正によって、給与収入850万円超の方は給与所得控除の上限が195万円になりますが、次のいずれかに該当する場合には、所得金額調整控除として【(給与収入(1,000万円を限度)−850万円)×10%】が給与所得から控除されます。
- 特別障害者に該当する場合
- 23歳未満の扶養親族がいる場合
- 特別障害者である同一生計配偶者もしくは扶養親族を有する場合
給与収入が850万円を超える方でも、生活の負担が大きい方については、幾分緩和されています。
特定支出控除の見直し(減税)
平成32年(2020年)から特定支出控除に、以下の見直しがおこなわれます。
- 職務遂行に直接必要な旅費等で通常必要と認められるものが追加
- 単身赴任者の帰宅のための旅費が、ひと月4往復の制限が撤廃され、燃料費、有料道路料金も対象に
公的年金等控除の引き下げ(増税)
平成32年(2020年)から、公的年金収入から控除される公的年金等控除が一律10万円引き下げられます。
また、これまではなかった控除額の上限がもうけられ、さらに、公的年金等以外にも高額の所得がある方については、公的年金控除がさらに引き下げられます。
65歳未満の方
公的年金収入 | 平成31年 (2019年)までの 公的年金等控除 |
平成32年(2020年)からの公的年金等控除 | ||
---|---|---|---|---|
公的年金以外の 合計所得金額 1,000万円以下 |
公的年金以外の 合計所得金額 1,000万円超 2,000万円以下 |
公的年金以外の 合計所得金額 2,000万円超 |
||
130万円以下 | 70万円 | 60万円 | 50万円 | 40万円 |
130万円超 410万円以下 |
年金収入×25% +37.5万円 |
年金収入×25% +27.5万円 |
年金収入×25% +17.5万円 |
年金収入×25% +7.5万円 |
410万円超 770万円以下 |
年金収入×15% +78.5万円 |
年金収入×15% +68.5万円 |
年金収入×15% +58.5万円 |
年金収入×15% +48.5万円 |
770万円超 1,000万円以下 |
年金収入×5% +155.5万円 |
年金収入×5% +145.5万円 |
年金収入×5% +135.5万円 |
年金収入×5% +125.5万円 |
1,000万円超 | 195.5万円 | 185.5万円 | 175.5万円 |
65歳以上の方
公的年金収入 | 平成31年 (2019年)までの 公的年金等控除 |
平成32年(2020年)からの公的年金等控除 | ||
---|---|---|---|---|
公的年金以外の 合計所得金額 1,000万円以下 |
公的年金以外の 合計所得金額 1,000万円超 2,000万円以下 |
公的年金以外の 合計所得金額 2,000万円超 |
||
330万円以下 | 120万円 | 110万円 | 100万円 | 90万円 |
330万円超 410万円以下 |
年金収入×25% +37.5万円 |
年金収入×25% +27.5万円 |
年金収入×25% +17.5万円 |
年金収入×25% +7.5万円 |
410万円超 770万円以下 |
年金収入×15% +78.5万円 |
年金収入×15% +68.5万円 |
年金収入×15% +58.5万円 |
年金収入×15% +48.5万円 |
770万円超 1,000万円以下 |
年金収入×5% +155.5万円 |
年金収入×5% +145.5万円 |
年金収入×5% +135.5万円 |
年金収入×5% +125.5万円 |
1,000万円超 | 195.5万円 | 185.5万円 | 175.5万円 |
年金収入がある方でも、高額所得者の方については増税となります。
基礎控除の引き上げ(減税・一部増税)
誰でも控除が受けられる基礎控除についても改正されます。
合計所得金額が2,400万円以下の場合には、一律10万円の引き上げがおこなわれ、48万円の控除を受けられます。
中所得者から低所得者については、給与所得控除と公的年金等控除の引き下げ分をここで補うようなイメージですね。
ただし、合計所得金額が2,400万円を超える高額所得者は逆に控除額が引き下げられ、2,500万円を超えると基礎控除はなくなります。
合計所得金額 | 平成31年(2019年) までの基礎控除 |
平成32年(2020年) からの基礎控除 |
---|---|---|
2,400万円以下 | 38万円 | 48万円(43万円) |
2,400万円超 2,450万円以下 |
32万円(29万円) | |
2,450万円超 2,500万円以下 |
16万円(15万円) | |
2,500万円超 | 0円(0円) |
※カッコ書きは地方税の基礎控除額(2021年度から)。
青色申告特別控除の引き下げ(増税)
65万円の青色申告特別控除が55万円に引き下げられます。
ただし、電子帳簿保存を行っている場合や電子申告(e-Tax)により確定申告を行う場合は、従前どおりの65万円の控除を受けられます。
電子申告が必須になってきますが、申告期限直前でe-Taxで送信できないというトラブルがあった場合に、やむなく紙の申告書で提出するときは55万円控除になってしまいますので、余裕をもった申告が必要になりますね。
なお、10万円の青色申告特別控除は従前どおりで、電子帳簿保存も電子申告もしなくても10万円控除を受けられます。
扶養親族等の合計所得金額
配偶者控除や扶養控除の判定の基礎となる合計所得金額(繰越損失、各種所得控除前の所得金額)の要件が、給与所得控除及び公的年金等控除の引き下げにより、引き上げられています。
対象 | 平成31年(2029年)までの 合計所得金額 |
平成32年(2020年)からの 合計所得金額 |
---|---|---|
同一生計配偶者扶養親族 | 38万円以下 | 48万円以下 |
源泉控除対象配偶者 | 85万円以下 | 95万円以下 |
配偶者特別控除対象の配偶者 | 38万円超123万円以下 | 48万円超133万円以下 |
勤労学生 | 65万円以下 | 75万円以下 |
家内労働者の必要経費最低保障額の引き下げ(増税)
給与所得控除の最低保障額だった65万円とのバランスを考慮してもうけられていた家内労働者の必要経費最低保障額65万円が、給与所得控除の引き下げに足並みを揃えるように、平成32年(2020年)から55万円に引き下げられます。
これは、シルバー人材センターなどで働く方が当てはまるかと思いますが、基礎控除が10万円引き上げられているので、余程の高額所得者でない限りは影響はなさそうです。
森林環境税の創設(増税)
平成36年度から年額1,000円の森林環境税が課税されます。
まとめ
給与所得控除及び公的年金等控除の引き下げと基礎控除引き上げで、低所得者にとっては現行と変わらないような改正になっていますが、中所得者・高所得者を対象とした増税であることがハッキリしている改正になります。
平成30年からは配偶者控除がその人の所得金額によって段階的に控除額が減少するようになりますが、今度はすべての人が適用を受けられている基礎控除でさえ、高所得者は適用が制限されるようになり、所得税の計算がますます複雑になってきたなと、個人的には感じています。